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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)878号 判決

主文

原判決中上告人に関する部分を破棄する。

被上告人等の上告人に対する控訴を棄却する。

原審及び当審における訴訟費用中被上告人等と上告人との間に生じた部分は、被上告人等の負担とする。

理由

被上告人等先代中野新次郎が本訴の請求原因として主張する事実の要旨は、左記(一)ないし(四)のとおりである。

(一)  被上告人等先代は、さきに上告人及び高畑定広(本件第一、二審における上告人の共同当事者であつたが、原判決中同人に関する部分は上告申立がなくすでに確定した)の両名(以下上告人等という)を被告として、京都地方裁判所に対し、左記請求原因事実に基き四五万円の支払を求める訴を提起した。すなわち、被上告人等先代は、昭和二三年九月二六日上告人等に対しダイヤモンド入帯留一個を四五万円で売却方を委任し、同日右帯留を上告人等に引き渡したが、同年一〇月五日右委任を合意解除し、上告人等は被上告人等先代に対し同月一一日限り右帯留を返還するか又は損害金四五万円を支払うべく、もし右期限にその何れの債務をも履行しないときは、被上告人等先代において右の何れかの債権を選択行使しうることとする旨の契約を締結したところ、上告人等は右期限に帯留を返還せず金員の支払をしなかつたので、被上告人等先代は約旨に基き選択権を行使し上告人等両名に対し四五万円の支払を求める、というのである。そして右訴訟は京都地方裁判所昭和二三年(ワ)七七八号事件として係属したところ、同裁判所は、審理の結果、被上告人等先代の右請求を理由があると認め、「被告等(上告人等)は原告(被上告人等先代)に対し四五万円を支払え」との判決をなし、これに対し上告人等から大阪高等裁判所に控訴を申し立てたが(同庁昭和二四年(ネ)四四七号)、控訴が棄却され、よつて前記判決は確定した。

(二)  被上告人等先代は、その後右四五万円の債権の中二二万五千円の支払を受けた。

(三)  けれども、前記契約当時上告人等はいずれも骨董商で右契約は同人等のため商行為たる行為であつたから、上告人等は右契約に基く四五万円を連帯して支払う義務を負担したものである。

(四)  そして、被上告人等先代は右(一)の訴訟(以下前訴といい、これに対して本件訴訟を本訴という)において右四五万円の連帯債務中の二分の一に当る二二万五千円についてのみ支払を求めたのであるから、本訴において更に残余の二二万五千円を連帯して支払うべきことを求める。-ちなみに、原判決は、被上告人等先代が本訴の請求趣旨として「被控訴人等(上告人等)は控訴人(被上告人等先代)に対し四五万円を支払え」との申立をした旨摘示するが、記録によれば、被上告人等先代がかかる申立をした事実を認めることはできない。被上告人等先代は本訴の第一審において「被告等(上告人等)は連帯して原告(被上告人等先代)に対し二二万五千円を支払え」との請求趣旨を申し立て、その後何ら右申立を変更しなかつたものであることは、記録上疑の余地がなく、原判決の右摘示は誤りである。

以上(一)ないし(三)の事実に基く被上告人等先代の本訴請求に対し、原審は、証拠に基き、右(一)の確定判決のあることおよび(三)の事実を確定した上(ただし、(三)の主張事実中上告人等の営業は、上告人は古物商、高畑は小間物商及び貴金属商と認定した)、前訴の確定判決は、上告人等が本件契約に基き負担した四五万円の連帯債務の二分の一すなわち各自二二万五千円の債務を負担する部分につきなされたもので、その既判力は右の範囲に止まるから、残余の二分の一に当る各自二二万五千円ずつの債務の履行を求める本訴請求は理由があるとし、「被控訴人等(上告人等)は控訴人(被上告人等先代)に対し四五万円を支払え」との判決をした(この判決が被上告人等先代の申立を誤解してなされたものであることは前記により明らかである)。

思うに、本来可分給付の性質を有する金銭債務の債務者が数人ある場合、その債務が分割債務かまたは連帯債務かは、もとより二者択一の関係にあるが、債権者が数人の債務者に対して金銭債務の履行を訴求する場合、連帯債務たる事実関係を何ら主張しないときは、これを分割債務の主張と解すべきである。そして、債権者が分割債務を主張して一旦確定判決をえたときは、更に別訴をもつて同一債権関係につきこれを連帯債務である旨主張することは、前訴判決の既判力に抵触し、許されないところとしなければならない。

これを本件についてみるに、被上告人等先代は、前訴において、上告人等に対し四五万円の債権を有する旨を主張しその履行を求めたが、その連帯債務なることについては何ら主張しなかつたので、裁判所はこれを分割債務の主張と解し、この請求どおり、上告人において四五万円(すなわち各自二二万五千円)の支払をなすべき旨の判決をし、右判決は確定するに至つたこと、上告人の前記(一)の主張自体および一件記録に徴し明瞭である。しかるに被上告人等先代は、本訴において、右四五万円の債権は連帯債務であつて前訴はその一部請求に外ならないから、残余の請求として、上告人等に対し連帯して二二万五千円の支払を求めるというのである。そして上告人等が四五万円の連帯債務を負担した事実は原判決の確定するところであるから、前訴判決が確定した各自二二万五千円の債務は、その金額のみに着目すれば、あたかも四五万円の債務の一部にすぎないかの観もないではない。しかしながら、被上告人等先代は、前訴において、分割債務たる四五万円の債権を主張し、上告人等に対し各自二二万五千円の支払を求めたのであつて、連帯債務たる四五万円の債権を主張してその内の二二万五千円の部分(連帯債務)につき履行を求めたものでないことは疑がないから、前訴請求をもつて本訴の訴訟物たる四五万円の連帯債務の一部請求と解することはできない。のみならず、記録中の乙三号証(請求の趣旨拡張の申立と題する書面)によれば、被上告人等先代は、前訴において、上告人等に対する前記四五万円の請求を訴訟物の全部として訴求したものであることをうかがうに難くないから、その請求の全部につき勝訴の確定判決をえた後において、今さら右請求が訴訟物の一部の請求にすぎなかつた旨を主張することは、とうてい許されないものと解すべきである。

されば、本訴請求が前訴の確定判決の既判力に抵触して認容するに由なきものであること冒頭説示に照らし明らかであるから、これを認容した原判決は違法であつて、論旨は理由があり、原判決中上告人に関する部分はこれを破棄し、被上告人等の控訴を棄却すべきである。

よつて、民訴四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条および八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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